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日西経済友好会 第52回定例会活動報告


日時:2011年06月08日(水)19:30〜22:30
場所:在日スペイン大使館
参加者:59名
1)ミゲル・アンヘル・ナバロ 氏(駐日スペイン大使) 講演
2)概況説明
   
1) 講演
  「着任のご挨拶」
  ミゲル・アンヘル・ナバロ 氏
   
  講師略歴
    1949年生まれ。スペイン サラゴサご出身。
サラゴサ大学Lawスクール、ベルギー欧州大学院ご卒業後、コロンビア大学に学び法学修士号取得。
スペイン外務省入省。在外勤務は、韓国、オーストラリア(公使)ポーランド(大使)、ベルギーEU本部では12年に亘りスペイン代表を務める。
2011年2月18日駐日スペイン大使として信任状奉呈。
   
  講演概要
  ―はじめに―
    日本に着任して初めての講演を、スペインファンの集まりである日西クラブで行うことを名誉と思う。
私も、日本ファンで日本に勤務することが長年の夢であった。
今回の地震・津波・原発事故の三重災害に直面しての日本国民の冷静な対応に感動。スペインには、あまり動かない牛には、こちらもじっと動かないことという闘牛の教えがあるように、日本国民のもとに断固としてとどまる決断をしたわけである。
     
  ―講演テーマ
    講演テーマを自由に決めてよいとのことなので、まだ日本に着いて間もないこともあり、自分が27年間携わったEUをテーマに話すこととしたい。
今年2011年は、スペインがEUに加盟して25年目にあたるので、先ず、スペインのEU統合25年の歩みから始める。
     
  ―スペインのEU統合25年の歩み―
    1986年1月1日スペインはEU加盟を果たしたが、その後の25年間は、スペインの歴史にとって大変重要な時期で、この間 スペインは、政治、経済、社会面で大変革を遂げることができ、近代化と収斂を達成、将に別の国に生まれ変わったと言ってよい。
そこで2013年〜2014年を日本に於ける“スペインの年”と銘打ち 新しいスペインの姿を伝えるプロジェクトを計画しているので、スペインを良くご存じの皆さんを通して、今のスペインを 広く日本の方々へお知らせしたいと思っている。
私の経験から言えば、25年は歴史としては短いが、困難を排し多くの目標を達成したことで、スペイン現代史の中でも、最も熱気にあふれる時期であったと思う。
EUへの加盟は、7年間に及ぶ関税同盟への加盟交渉から始まるが、1977年加盟申請を提出、1985年オブザーバーの資格を得、1986年1月1日ポルトガルと共に、EU正式加盟が認められ、更にその7年後にはEU経済通貨同盟に加盟。1998年にはユーロを通貨とし、待望のEU収斂(convergencia )を達成した。
これ等EU土台作りは、ドイツのコール、フランスのミッテルラン、スペインのゴンザレスといったリーダーたちの世代が行い、自分もこの世代に属するが、今や当時のEUとは全く違うので、今後の統合プロセスは次世代の役割、責任になろう。
     
  ―25年間に起きた、2つのサイクル、2つの前進、2つの変革―
    2つのサイクルとは、結合(cohesion)と収斂(convergencia)のサイクルである。 前者は、スペインにとっては自国市場の開放であり、収斂は、各メンバー国それぞれが、実現に努力しているものだが、今やスペインは、資金的には、EU へ拠出する方が、EUから受け取る額より多くなり、収斂、結合の段階の国ではなくなった。
2つの前進とは、単一市場と欧州経済通貨同盟で、EUの強さは、この二つの上に根差している。
ただし、この間、前進できず現在もまだ非常に難しい分野は、EUの外交部門で、外交政策実施機関の設立も含め今後の課題として残っている。
2つの変革とは、第四次、第五次EUの拡大であり、メンバー国の数は現在27か国にまでなった。
この拡大を牽引した力は、内部もあるが外部の要素に負うところが大きい。即ち東西冷戦の終結により交流を阻んでいた障害が取り除かれたことである。
    今日の話の中心は、次の三点 すなわち
 (1) EUおよびEU 統合とは何か
 (2) EUの今後の課題
 (3) EU統合プロセスの中でのスペイン
について 私の意見をまじえ話すこととしたい。
     
  ―EUおよびEU統合とは何か―
    先ずEU統合の目標は、欧州連邦ではない。
私自身、EUが将来連邦の方向へ向かって行くことはあり得ないと考えている。確かに1948年頃は、欧州連邦が目標と考える人がいたが、今そのような人は少ない。
EU統合とは超国家プロジェクトなのである。
一番を目指すものではなく、ドンキホーテよりサンチョパンサ的なものである。
EUとは、それぞれ異なる文化をもった国々の集合からうまれたものである。多様な文化の坩堝ではあるが、共通点は、どの国も悲惨な戦争の歴史を共有していることである。
文化の違いは、色々な案件の採決に際して、メンバー国がそれぞれ異なる決断を下す場面に良く表れている。
    次に EUとは過去のプロジェクトの失敗から生まれたものである。即ち第一次世界大戦に続き第二次世界大戦も防ぐことが出来なかった反省から生まれたのである。
欧州は、戦禍の焦土の中から、もはや国家間の対立は過去のものとし これからは和解(reconciliacion)を通して欧州は立ち上がらなければならないと気付いたのである。したがって和解がEUのキーワードであり、EU統合の過程を理解するには、すべてこの和解の視点から見なければならない。
だからこそ 法の支配とその遵守を義務とする共同体になっているのである。
    次に EUは、他の国際機関のように予めモデルが定められたものではなく、常に進展、進化しているので、今後どのような形になるのか予想することが出来ない。その時々の必要性と政治的意思の影響を受けて動くのである。 従って EU拡大賛成派と反対派の対立で進展の歩みが遅くなったり、後戻りしたり、再開したりということがありうる。 例えば EU憲法などは、自分も1990年に始まる討議に参加したが、その実現に20年もの歳月を要している。
    処でEU統合プロセスは、私見ではあるが、暗黙の三つの考えに結びついていると思う。
一つ目は、共通通貨を採用し完全な単一市場を創設すること。但しこれは実体的な経済力を備えた市場ではない。 通常各国の国内経済市場は、統治能力を備えたものであるが、EUの単一市場は、それ自体に統治能力備がわっているものではない。
二番目の考えは、メンバー国間の利害対立の解決方法は、EUの定める諸規定を適用して行うこと。 最終決定権は、欧州議会にあること。
三番目の考えは、EU統合プロセスの最終目標の定めはないこと。したがって 政治統合はいつまでに行う等の行動予定日程を定めることはしない。
    茲でEUに過去および現在も欠けているものについて話す必要がある。 それは国の制度、機関には必ず存在し、それが機能するための基本的要件である社会的要素である。即ちEU構成国の国民に、ヨーロッパ市民という意識が欠如していることである。 市民意識とは何かに所属しているという意識であり、自分はドイツ人とかフランクフルト市民であるという 所属意識である。EU案件が国民投票に付された場合、市民の参加率は低い。
欧州議会議員選挙でも、投票率は、自国の選挙よりも低い。
ヨーロッパ市民意識を持っている人は少数派である。
欧州憲法が失敗したのも、EUメンバー国 国民の中に「ヨーロッパ市民」という意識が欠如しているから 社会的支持を得られなかったのである。
ではなぜ「ヨーロッパ市民意識」が乏しいのか。
それは、EUの構造面、機能面で当初から、決定はトップダウンで決まり、民主国家のようにボトムアップでなかったことだと私は思う。
経済環境がいいときは問題ないが、現在のように経済、財政危機の時、市民が逃避する場所は、結局自分を守ってくれる自国の機関になってしまうのである。
    最近のEU統合の動きをみると、拡大方向への圧力が強くなってきている。私は拡大には賛成である。勝者と敗者の和解だけでなく二つのブロックの再会まで拡大すべきだからである。
ただその結果の難しさも認識している。 EU域内の異質性が増大してくるから、今までのように 議論は簡単には行かない。
しかし私は楽観的である。EU統合過程を、成功か失敗かでみるべきではなく、その時々の必要性から困難の克服をいかに図ったかに目を向けるべきだと思う。
現在のように 国の決済能力が問題になっているときは、既存のEUの取り決めでは対応できず、政府間合意で対処していかなければならないが、BCE総裁が、今後EU内に財務省的機関を作る必要があるのではないかと発言したように、EUが共通の目的のために効率的に機能するためには、独自のイニシアチブも発揮できる機関の創設も考えなければならない。
但しその場合、市民ベースでの社会的支持が得られるように、事前に、十分な説明をしておく必要があろう。
     
  ―EUの今後の課題―
    現在のEUに、構造面での危機はみられないが、成熟という危機が現れてきていると思う。
EU拡大は、それを吸収する力も併せ備えていなければならないが、吸収が遅れる状況にあるからである。
もう一つは、EUの原動力となる熱意が弱まっていることである。
いずれも成熟からくる現象で、人間でいう“middle age crisis である。
    次に“失われた10年”の問題。1990年に討議が始まった欧州憲法は、実に20年かけて5回の修正の結果は、内容的には、ほぼ最初の形に戻ったという例が示すように、これからは、内部の枝葉の議論に多大の時間とエネルギーを使うべきでない。米国、中国、BRICS等をカタリストとして現実的に進めて行かねばならない。
無論メンバー国が増えれば、それだけコンセンサスを得るのは、難しくなるだろう。
    EUの外交部門。EU共通外交安全保障政策上級代表を務めたハビエル・ソラーナ氏とは同氏が外務大臣の時から接していたが、彼がEU上級代表時代は、18項目からなる条約をその行動基準としていたという。今後EUとしての統一外交政策を効率的に遂行してゆくためには、その代表となる人物と共に、制度面の改革が必要になろう。
EUと日本の関係。
日本はGDP2位ではなくなったとはいえ、堅実で堅固な経済力から言えばその地位に何ら変化はなく、EUにとってグローバル時代の重要なパートナーである。
5月開催の日本EU議員会議では、合意に至らなかったが、両者とも相手の立場を理解し、互いに少しメンタリテイーを変え、できるだけ早く、韓国のようにEPA締結が望ましい。
     
  ―EU統合プロセスの中でのスペイン―
    スペインは、EU統合プロセスの中で、自国の民主化と近代化を実現することを目標とし それを実現した。
従って、目標の達成に情熱を傾けたので、統合をそれほど困難とは感じなかった。
今後のEU統合プロセスの中でも、スペインのこのスタンスは変わらず、EUは、スペインの目標を達成する場であり且つ問題を解決する場として、統合に貢献して行くであろう。
     
  ―質疑応答―
  P. ユーロ導入後、物価が上昇し所得差が拡大したといわれているがスペインの場合如何
  R. ユーロ導入時点では、ペセタとユーロとの相場に端数がついたので、それを切り上げることで値段が上昇したものもある。また移行期間2年はペセタとユーロの二重表示を義務付、便乗値上げを防ぐ措置を執った。
所得については、EU加盟時点、スペインは、バスク、カタルニア、ナバロ、アラゴン、バレアーレスを除き、EU平均を下回っていたが、現在はエストレ・マデウラ州のみが75%であとはすべてEU平均を上回っている。当然国内に地域差はあるが全体的に見れば、EUの構造資金等の補助金を受けた結果所得は収斂している。
     
  P. 質問は二つ。
(1)トルコはEUに加盟できるのか否か。
(2)EUの外交政策は、エネルギー、貿易、あるいはイラン北朝鮮の核問題等でベースとなる基本方針、考え方をもとに展開しているのか如何。
  R. (1)トルコの加盟は、意見が二つに分かれ難しい問題である。フランス、ドイツは文化が異なるとして異議を唱えている.無論その背後にはいろいろな思惑があると思う。
スペインおよびそのほかの国々は、賛成している。
トルコは、EUにとって戦略的パートナーであり、経済的にも緊密な関係にあるうえNATO他欧州諸機関にも早くから加盟している。人口規模も大きくその所得水準からすればEU構造資金の対象にもなりうるところが微妙ともいえ収斂の度合いが進めば加盟の話も具体的になるかもしれない。
(2)EU母体の三つの柱の二つは、欧州石炭鉄鋼共同体、欧州原子力共同体であり、いずれもエネルギー関係だが、エネルギー源を何にするかについては、各国の裁量に任されている。
環境問題等は、きまった方針があるが、現状 外交はG8, G20等の場での対話を通じて行われている。
今回のリビア問題にみられるようにEUとして統一された外交政策を展開するまでには至っていない。
     
2) 概況説明
    講演に先立ち、田中会長より、今回の原発放射能危険に直面して他の大使館が一時的に閉鎖、館員の国外避難等の動きがある中で、ナバロ大使は、毅然として大使館業務を続けられたとのエピソードが紹介され、参加者一同大いに感動。
一方 新大使は、自らの行動は当然のことと謙虚に語られ、本題のEUをテーマに、ご自身の経験に基づく貴重なご意見をまじえながら、詳細にEUの歴史と今後について講演された。
レセプションの場では、どんな素朴な質問にも丁寧に答えられ、その真摯なお人柄に、多くの参加者が感銘を受けた。
会場は、スペインワインと本場のタパスで盛り上がり、通常の終了時間を大幅に上回る、10時半のスペインタイムでお開きとなった。
参加者の多くから、素晴らしい内容の得難い講演だったとの声が聴かれた。 大使館内での今回の例会は、厳しい使用規定に縛られ、ロジを担当された方々には多大のご苦労を強いる結果になったが、それに報いる質の高い会になったものと思う。
     
    以上   
(文責 澤木)




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