第36回定例会

日時:2007年12月20日(木)18:30~21:30

場所:サロン・ド・テ・ジュリエ

参加者:43名

1)日西クラブ・ホームページ完成
2)「レ・ストゥディ」 オーナーシェフ ジョセップ・バラオナ氏 講演

1)日西クラブ・ホームページ完成

    講演に先立ち、司会の事務局(新東通信)大濱氏より、ホームページ完成の報告あり、未だ工事中の部分もあるが、http://www.club-nippon-spain.jp/ を閲覧、色々ご意見やご提案を頂くようお願いをした。

2)講演

講演概要
    今回はピンチョス料理を中心にスペイン現代料理の有名シェフとしてご活躍中のジョセップ・バラオナ・ビニェスをお迎えしての講演だったこともあり、参加者が多く席が足りない程の盛況であったが、同氏の料理哲学、こだわりの本質を聞くことが出来た。
    会長挨拶に引き続き、大濱氏の司会で、バラオナ氏の紹介(カタルーニャのレリダ出身、小笠原伯爵邸の総料理長を務め、数々の料理本を出され、最近では伊勢丹地下食品売場でピンチョスを中心とした商品販売を手掛け、日比谷で完全予約制で一日一組6~12名限定の「レ・ストゥディ」をオープン。)に始まり、在日15年の流暢な日本語でのユーモアを交えた話に参加者一同魅了された。
講演
    「スペイン料理の昔と今」 ジョセップ・バラオナ氏 (「レ・ストゥディ」 オーナーシェフ)

      元々は、コックになる気持ちはなかったが、実家がお店をやっていたので、大学卒業後、自然にコックになった。自分にとって良かったのは、母親が料理が上手で、更に、自宅の庭のオリーブの木から採ったオリーブ油とか、常に旬の品質の良いものに接して育ったことである。
      最近はコックのイメージが変わり、美味しいものを作るというより、奇をてらった特殊なものを作る傾向にあり、今や大きな問題となっている。
      自分はスペインの外に居るからこそ分かる。例えば、「エル・ブジ」のフェランは「人まねをしない」という主義でそれが彼のブランド・イメージとなってしまったため、次々に目新しいものを出さざるを得ず、最早元に戻れなくなっているが、本当は自分でも今のスタイルを苦々しく思っている。
      しかし、これは彼に限ったことではなく、現在のスペイン料理界全体に言えることで、例えば自分が昔、非常に好きだったバスク地方のサン・セバスチャンにある「アルサック」も元々シンプル、ベーシックなバスク料理だったのに、今や全く変な料理となってしまった。変なだけでなく美味しくない。
      最近の若い人はコシードとか煮込み料理を好まないが、昔の料理と今の料理を両方知ってバランスを取るのが良いと思う。3~5年前はスペイン料理はパエジャ位しかなく、色々バリエーションが出て来たのは良いが、基本を分からずに変なものを高く出すのは感心しない。新しいものは初めは楽しいし、面白いが、中身が分かってくると段々嫌になって来る。自分は外から見ているからよく分かる。
      しかし、スペイン料理の評価が高まったのは有難いことで、昔は、スペイン関連イベントには、フラメンコもあるとでも言わないと、中々人が集まらず大変だったが、今やどこでも会場は満席状態である。スペインでも全体のレベルが高くなり、人々の評価も厳しくなって来ており、ワイン等も品質は非常に向上して来ている。
      質疑応答

      1. 1998年~2006年までの全体のワイン輸入動向を見ると、1998年は赤ワインブームで急増、スペインワインも史上初めて輸入百万箱(12百万本)に達した。
        1999年~2000年は若干の増減はあるものの比較的安定して推移。
        市場シェアはフランス42%、イタリア20%と突出、その後米国、チリ、スペイン、オーストラリア、ドイツと続く。
        但し、シェアは小さいながらもスペインワインは2000~2006年 唯一コンスタントに輸入が増え続けた点特筆に価する。
        日本人のワイン消費量は一人年間2リットル、スペインは36リットル。
        その限りでは市場の潜在力はあるとも見られるが、「スペインワインは安かろう、悪かろう」の偏見が消費者の間に強く、フランスワインには5千円出してもスペインワインでこの価格は難しいのが実情。
        又ワイン消費は都会が中心で、未だ地方の需要は乏しく、昨今のユーロ高も逆風となり
        スペインワインのシェア拡大を取り巻く環境には厳しいものがある。
      1. 私は素材そのものが大好きで、子供の頃から、美味しいものばかり食べて育ったが、日本でも母親の昆布出汁から取った本当の味は皆さん分かっており、これが一番大事である。
        今では一年中何でも手に入り季節感がないが、旬のものを食べるのが良い。遊び心は大事だが、やはり素材が大事である。
        ミシュランの日本進出は2~3年前から知っており、声も掛けられたが、
        自分は好きではない。ミシュランの格付け店とは関係なく、美味しい店は沢山ある。
      1. 私はスペインに居た時に「アルサック」の料理に感動したのですが、行き過ぎだと言われる理由を説明して頂きたい。
      1. アルサックはバスク料理の創始者ともいうべき人で、元々は当たり前の肉や魚をシンプルに美味しく作る名人だったが、最近は分からない変なものを出して美味しくない。流行に合わせてやり過ぎは良くない。高くても美味しければ良いが、正直な所不味い。
        これは自分だけの意見ではない。
      1. バラオナさんの来日当時と比べて、日本人の味覚能力は進んだか?
      1. 日本人は世界中で一番味に厳しい。スペイン人は好きか嫌いかだけ。日本人は率直でない所があり、不味いとは中々言わないので、本当に美味しいと思ったのかどうか分からない。この点は今も変わっていない。
      1. 日本人が砂糖、塩とかの調味料をグラムとか分量で計る味付けをどう思うか。
      1. 日本でもスペインでも難しい料理の場合は正確な分量で計るかも知れないが、家庭の母親の料理の場合は目分量で、これは日本でもスペインでも同じだと思う。
      1. 2年程前にスペインに行って色々案内されたが、エスプマみたいな料理が多く、「アルサック」が一番美味しいと思ったが、今日の話では「アルサック」も同じようなものになってしまったのでしょうか?伝統的なスペイン料理を食べれる店を教えて欲しい。
      1. 「アルサック」は16年前に初めて行った時は泣きそうになる位美味しかったが、今は美味しくない。しかし、又、昔のスタイルに戻ろうとしている。美味しい店は沢山あるが、レストランは少ない。一つだけ挙げるとすれば、バルセローナ近郊の「イスパニア」で本当に美味しい。自分はバスク地方が大好きだが、サンセバスチャンのピンチョス、タパスは皆美味しい。
        バルはどこに行っても美味しく、当たり外れがない。
        後もう一つ好きな店は「ラス・レハス」で、クエンカの何もない小さな村にあり、店の看板も分かり難く、村人も知らないような店だが、中に入ると別世界で素晴らしい料理を楽しめる。

    3)概況コメント

      結局、バラオナ氏の言わんとするのは、「素材を重視した伝統的なスペイン家庭料理をベースに新しいアイディアを加えた料理」、即ち、「伝統と現代のバランスの取れたマリアージュ」を目指すということかなと思いました。2008年2月には煮込み料理や豆料理の新しいお店をオープンとのこと。講演後は、ハモン・セラーノ、ケソ・マンチェゴに飲み放題のワインで話も弾み、忘年会に相応しい会となりました。
      以上
      (文責 清水)