第37回定例会

日時:2008年2月21日(木)18:30~21:30

場所:サロン・ド・テ・ジュリエ

参加者:30名

1)ワインメーカーMiguel Torres 駐日代表 Josep Plana Monserrat 氏 講演

1)講演

    スペインの一人当たり国民所得は、遂にイタリアを追い越したといわれているが、ワイン生産大国にも拘らず、スペインワインの日本市場シェアは、未だイタリアに大きく引き離されている。そこで、EUの新たなワイン政策が発表されたのを機に、今年最初の講演は、名門ワインメーカーMiguel Torres 駐日代表Josep Plana氏に日本に於けるスペインワインの現状と展望について話して頂いた。講演概要以下の通り。
    1. Miguel Torres 社について

      *創業
      創業は1870年。現当主Miguel Torres は五代目。初代Jaime Torres は、バルセローナの近郊Vilafrancaに4兄弟の四男として生まれ、成人してキューバへ移住した。
      当時のスペイン社会では、長男が家督を継ぎ、次男は軍人、三男は僧職、四男には如何なる道も残されていなかったので移住するより他なかったようだ。
      彼は、キューバで成功を収めるが、そこに定住はせずスペインへ帰り、父親と長兄とに語り合い、南米へワインを輸出する会社を立ち上げた。これがTorres 社の前身となる。
      ブランドの3つの柱はこの3人の創業者を象徴する。
      *生産販売体制
      生産はスペイン、チリ、米国カリフォルニアの三極体制。
      スペインでは標高の異なる3つのエリアに合計2千ヘクタールのぶどう園を有し、「適地、適品種」の考えを基に多彩な味わいのあるワインを生産する。
      チリには1979年に進出。当時壊滅状態にあったワイン産業を復活させたパイオニア的存在なので、400ヘクタールの中規模ぶどう園を有するも、チリ国内でのTorres のプレゼンスは極めて高い。
      カリフォルニアには1986年進出、50ヘクタールの小さな葡萄園で、日本では一本5千円程度での高級ワインを専門に生産する。
      販売網は、Torres資本100%のカナリア、スウェーデン(市場を独占)、米国、中国(10年前に進出約100人の陣容)の販社とTorres が資本参加する各国の系列販社よりなる。
      唯一例外は日本で、販社は独立系。輸入販売は主にサントリーが行っている。
      一方 「何処に行ってもTorres 製品があるように」との当主の考えを反映 現在 世界約130カ国 北朝鮮にまで輸出。そこからイラク、イランへも出ていたようだ。
      *地域別売り上
      スペイン36%、EU34% その他28%。日本は11番目でベストテン入りを目指したい。
      利益率の高いブランデイも生産しているが、ブランデイ市場はスペイン、メキシコ、フィリッピンで日本ではコニャックの嗜好が強い為 売られていない。
      *企業理念
      当初より品質重視を基本理念としているので、経営は生産部門志向。毎年R&Dに3百万ユーロも投じている。これはファミリー会社だからこそ出来るもので、上場企業だったら株主の反対で出来ないだろう。製品は総てTorresブランドで統一されているのでブランドそのものが品質保証を表している。
      近年マーケテイング指向の重要性にも気付き、ワインと食文化の普及、ワインの効用PR、ワインプロモーションのイベントにも力を入れている。
      ブランドアンケートでは、SEATやCAMPSA同様の知名度で、日本ではFreixenetより知られているのはTorresのブランド政策の成果。
    2. 日本市場におけるスペインワイン

      1998年~2006年までの全体のワイン輸入動向を見ると、1998年は赤ワインブームで急増、スペインワインも史上初めて輸入百万箱(12百万本)に達した。
      1999年~2000年は若干の増減はあるものの比較的安定して推移。
      市場シェアはフランス42%、イタリア20%と突出、その後米国、チリ、スペイン、オーストラリア、ドイツと続く。
      但し、シェアは小さいながらもスペインワインは2000~2006年 唯一コンスタントに輸入が増え続けた点特筆に価する。
      日本人のワイン消費量は一人年間2リットル、スペインは36リットル。
      その限りでは市場の潜在力はあるとも見られるが、「スペインワインは安かろう、悪かろう」の偏見が消費者の間に強く、フランスワインには5千円出してもスペインワインでこの価格は難しいのが実情。
      又ワイン消費は都会が中心で、未だ地方の需要は乏しく、昨今のユーロ高も逆風となり
      スペインワインのシェア拡大を取り巻く環境には厳しいものがある。
    3. 新たなEUのワイン規制

      従来、スペインは産地呼称制度で品質管理を行ってきたが、今回のEU規制は作付面積の規制、新規植え付け制限、生産方法の規制などで、従来の伝統的製法は認められず、自由な活動は制限され、現在更なる作付面積の削減が求められている。
    4. 質疑応答

      質問は、ワインの関税率を含め、主として今後のマーケテイングに集中した。
      これに対し概ね以下の説明があった。
      従価税15%ないし従量税のどちらかになる。チリワインは日本と結んだFTAの恩恵を強く受けているが、その面でスペインワインは不利な立場にある。Torres製品は現在多数の中小輸入業者も扱っているが、中心的存在はサントリー。但しサントリーの中でワインの占める割合は僅か5%に過ぎない。当主のMiguel Torres は日本市場に従来から愛着を持っており、期待する成果が中々でない処から、Japan Officeを設置したもの。このほか最近の安売りワインの実情についても説明があった。
    5. 概況コメント

      Josep Plana 氏のパワーポイントを駆使しての講演内容は、現場の率直な気持ちが滲み出ており参加者一同大変興味深く拝聴した。
      ワインは当クラブ会員にとって関心あるテーマなだけに、懇親会では、寄贈のTorres ワインを片手にあちらこちらにワイン談義の花が咲いた。
      イタリアレストランの隆盛が、イタリアワインの普及に寄与したとすれば、昨今のスペインバールブームはチャンス到来とも考えられ当クラブ会員各位の経験や知恵を出しての草の根の応援がスペインワインのシェアアップにつながる事を念じながら、第37回例会は、盛会裏にお開きとなった。
    以上
    (文責 清水)