第39回定例会 & 第10回総会

日時:2008年7月3日(木)18:30~21:30

場所:サロン・ド・テ・ジュリエ

参加者:30名

1)総会
2)アルフレッド・サマリエゴ氏 講演
3)概況説明

1)総会

    前期活動報告及び今期活動予定を清水副会長が報告、前期決算報告及び今期予算を田林会計担当理事が説明し、夫々参加会員全員により承認された。 更に役員の2年任期が前期末を以って満了するも、新たな候補者無きため 現役員の再任が承認された。

2)講演

    アルフレッド・サマリエゴ氏( BBVA (バンコデビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア)東京支店長 )
    「岐路に立つ中南米:チャレンジとリスクと展望」
    日本企業は、過去の苦い経験から、永い間対中南米投資に拒絶反応を示していたが、昨今漸く進出の動きを見せ始めたことを踏まえ、今回は 中南米における活発な事業展開で成功を収めているBBVAの東京支店長サマリエゴ氏に中南米の現状と見通しについて話していただいた。講演概要下記の通り。
講演概要
    1. 資本市場の世界的混乱に直面した中南米の動き

  • 米国のサブプライムローン問題に端を発する世界的金融混乱に見舞われて10ヶ月。新興国経済一般 特に中南米は驚くほどの抵抗力を発揮している。
  • これは特筆に価する新しい現象で、過去においては 金融混乱のショックが拡大波及し中南米に押し寄せると、この地域は、経済危機に陥るのが通例であった。
  • 世界的金融混乱の原因が、実体経済から出ている場合、危機の影響は各種の金融ルートを通じて波及した。即ち国外では、リスク忌避と米国市場の金利上昇の動き、国内では 債務支払い能力と流動性の問題となって現れた。
    • * リスク忌避の動き
      世界的金融混乱は米国の企業向け貸し出しスプレッドの急上昇を招いたが、新興国のソブリン向け融資のリスクプレミアムはそれ程上昇せず、中でも中南米ソブリンものスプレッドへの影響は更に軽微であった。
      但し 中南米の中では、アルゼンチン、ベネズエラのリスクプレミアムが高くこれらをその他中南米ものと差別化する動きがある。
      基本的には リスク忌避の動きは、リスクプレミアムの面で新興国にそれ程の影響を与えなかった。
      * 証券市場への影響
      先進国証券市場が停滞気味であるのに対し新興国証券市場のパフォーマンスは良好で、特にラ米証券市場は上昇傾向すら示している。
      * 国際投資資金の流れ
      新興国証券市場から投資資金引き揚げの動きが最近出始めたとはいえ、金融混乱発生の当初数ヶ月は むしろ証券投資資金の流入が流出を上回っていた。
      中南米では証券投資資金流出の動きは他の新興国と比べ軽微である。
      * 外債の起債
      国際金融混乱の影響は、2007年後半、外貨建て公社債の起債激減という形で現れ、新興国の起債 特に今まで活発だった新興国金融機関の起債にブレーキがかかったが最近回復の動きが出始めている。但し新興国の中でもアジアは中南米より起債回復の動きは鈍い。
    2. 何故中南米への影響は限定的だったのか

      * マクロ経済が改善したこと
      中南米の一人当たりGDP伸び率は新興国経済の中で最も高く且つ加速する傾向にある。一方力強い国内投資の動きは、対GDP比 欧州新興国や中国を除くアジア新興国と同水準にまで達し、生産の多様化を実現した。
      輸出面では高成長のアジア地域への伸びが著しく輸出先が多様化した。
      * 対外決済能力が改善したこと
      恒常的双子の赤字、財政収支と経常収支が黒字転換。
      対外債務及び対外債務の元利金支払額が減少家計の債務支払負担は可処分所得の7%以下。
      中南米への外国直接投資の継続的流入と投資先としての魅力維持。
      海外からの郷里送金の著増と継続的流入。
      近年切り上げ圧力を受けた結果 外貨準備の急速な積み上がり。
      外国金融機関に対する借り入れ債務の減少(外国金融機関の対中南米エクスポージャーは、米銀が減少し西銀が中心になる)
      * 制度、体制が改善したこと
      金融機関の自己資本が強化。
      金融機関のバランスの取れた貸し出し政策。
      金融機関監督制度を改善し、リスク選別を強化、健全な融資を推進。
      インフレ目標を設定した金融政策の採用
    3. 中南米の懸念材料とリスク
    一次産品輸出依存度が高いこと。(輸出先別に見るとNAFTA向けではコロンビアベネズエラとも80%以上が一次産品。EU向けではアルゼンチン、コロンビアが80%以上、日本向けではチリーはほぼ100%)
    次に インフレ圧力が懸念されること。先進国経済に比し新興国経済は5ポイントほど高い物価上昇率で推移しているが中でも中南米のコアインフレは8%を超える勢い。
    更に 市場は中南米リスクを国別に選別し、アルゼンチン、ベネズエラを差別化する動きが出てはじめている。
    とはいえ 他の中南米の国 ブラジル、ペルーなどの格付けレイテイングは上がっている。
    4. 結び

      * 現在の資本市場の世界的混乱が中南米も含む新興国経済に影響を与えている事は確かだが、近年これら地域のマクロ経済、財務体質 その他制度体制が構造的に改善強化された結果 中南米経済は 危機に対し 驚くほどの余裕をもって立ち向かっている。
      * 更に 金融面での危機の波及拡大効果は、中南米では極めて限定的なものになっている。
      * このような中南米の当面の主要リスクは以下の三点に要約できる。
      一次産品の急激な価格調整リスク
      (現在の需給関係から見ると、このリスク発生の可能性は低いが 発生した場合その影響は国によって異なるものになろう。)
      国際金融市場での、資金調達コスト急上昇のリスク。
      インフレリスク (中南米に限らず新興国経済一般に新たに出てきた共通リスク)

3) 概況説明

  • 中南米で広範な支店網を有し、Banco Santander と中南米金融市場をほぼ独占しているBBVAだけあり、豊富な手持資料を駆使してのZamarriego氏の講演は説得力あるものであった。 世界の金融混乱が、常に金融危機に発展し債務不履行を繰り返した中南米の過去を思うと、その変貌振りには目を見張るものがある。
    当日西クラブ会員の中には中南米勤務経験者も多数いるところから、懇親会ではZamarriego支店長と積極的に意見交換する場面が見られた。
    昨今 新日鉄、トヨタ、大和證券の中南米(ブラジル)大口投資案件のニュースが注目を集めているが リスクの高いベネズエラでも収益を上げているBBVAの底力を見ると、過去の苦い歴史を繰り返さないためにも中南米市場でスペインと何らかの協力関係を模索する価値があるのではないかとの思いが頭を過ぎった。

以上
(文責 澤木)