第42回定例会

日時:2009年3月30日(月)18:45~21:30

場所:サロン・ド・テ・ジュリエ

参加者:39名

1)報告
2)案内
3)山田 彰氏(外務省国際協力局参事官、前在スペイン日本国大使館公使) 講演
4)概況説明

1)報告

    マドリード日本人会20周年記念「桜の植樹計画」(清水副会長)

  • 賛同頂いた18名の会員からの合計123千円を、手数料7千円は当クラブ負担にてユーロ送金、ささやかながら当クラブとしても貢献出来たことの報告及び御礼。尚、日本人会としては、目標の120本を上回る199本手当てが出来、193本をファン・カルロス・プリメロ公園に植樹(残りの6本は、大使公邸に2本、日本人学校に2本、予備用に2本)、4月22日には植樹記念式典の運びとなった。
    日本―スペイン間社会保障相互協定(内田会員)

  • 2008年11月、カルロス国王来日時に「日本―スペイン間社会保障協定」が署名された。署名後、両国にて国内手続きや需給方法の整備が行われ、実際の発効は2009年11月前後となる見通しである。尚、詳細に関しては社会保険庁にお問い合わせ願いたい。スペイン大使館経済商務部よりも情報提供に努める。
    田中会長から講師紹介(詳細略)あり、「オタク外交官」というあだ名を付けられた山田参事官から沢山の写真を使用、日本のポップカルチャーがスペインの若者にどのように浸透しているか、ご説明頂いた。

2)案内

    CICLO DE CONFERENCIAS ‘’LOS JUEVES, EN ESPANOL’’(同上)

  • スペイン大使館主催の新イベントとして、3月より、毎月一回、木曜日にスペイン語で行う対話形式セミナーが開催されることとなった。様々な分野のゲストを招き、スペイン通信社EFEの元記者である在日コロンビア人ジャーナリストのゴンサロ・ロブレド氏がお話を伺う。第1回目は3月19日に、スペインのビジネススクールIESE教授のホセ・ラモン・ピン氏による講演が行われ、第2回は4月16日に清水憲男先生による講演’’La imagen de El Quijote en Japon’’が予定されている。

3)講演

    「日本発ポップカルチャーとスペインの若者」
    講師:山田 彰氏(外務省国際協力局参事官、前在スペイン日本国大使館公使)

  • 2006年9月から2008年8月までスペインに駐在したが、公使としての公務の傍ら、日本のマンガ、アニメや歌謡曲・J-POPといった、ポップカルチャ―を通して、日本のソフトパワーを伝えることに努めた。
    麻生外務大臣の時代に、現地に広く受け入れられるものとして、ポップカルチャーが取り上げられて来たが、自分は既に90年代のワシントン駐在時代に、対日関心の源となっていることに気付き、ポップカルチャー外交を展開したいと考えて来た。
  • 大使館には日本に関する講演依頼が多く来るが、外交、政治、経済、経済協力、マンガといったテーマの中で、マンガに関する講演が一番人気があった。
    内容については、戦後のマンガの発展・現在・未来というようなテーマで、第二次世界大戦後の代表的なマンガ(手塚治虫に始まり、巨人の星、あしたのジョー、ドラゴンボール等々)を取り上げ、マンガを取り巻く社会状況を画像を見せながら説明をした。
    ポップカルチャー三部作として、マンガ、歌謡曲・J-POP、ゲームについて講演したいと考えたが、ゲームについては残念ながら時間がなく、講演出来なかった。
    歌謡曲・J-POPについては、戦後日本の歌姫達と題して、美空ひばりに始まり、宇多田ひかるまで、吉永さゆり、石川さゆり、松田聖子、中島みゆき等々の画像を見せながら歌を聴かせ、日本の歌を取り巻く歴史の説明をしたが、非常に好評であった。
  • 日本語教師に聞くと、日本語を学ぶ学生の70-80%がマンガ、アニメがきっかけということで、日本に関心を持つ学生の興味の中心がマンガ、アニメであることが分かる。
  • スペインには、マンガ、アニメの大きなフェスティバルが3つあり、スペイン人が運営する、スペイン人のスペイン人によるスペイン人のためのイベントである。
    ①EXPOMANGA(Madrid)
     3日間で2万人が参加、カラオケコンサートやコスプレショーも行われる。
    ②SALONDELMANGA(Barcelona)
     パリのEXPOJAPONに次ぐ欧州で2番目の規模で、毎秋開催、14年の歴史を持つ。4日間で8万人の入場者があり、日本総領事館もブースを持ち、マンガ、アニメに加え、伝統文化の紹介もしている。
    ③SALONMANGAJEREZ(Jerez de la Frontera)
     2日間でJerezの人口の約10%の2万人が集まる。
     マンガ、アニメに加え、生け花、折り紙等の展示もある。
  • マドリードには大きなマンガ、コミック専門書店が10店以上あるが、2/3以上の本は日本のマンガのスペイン訳である。ドラゴンボールは何処の国でも一番人気のあるマンガである。
  • スペインにはADAM(Asociacion de Defensa del Anime y del Manga、マンガ保護協会)があり、’’Tokio para Otakus de Ilusion’’(スペインのオタクのための東京観光ガイド)を作り、秋葉原とか中野で何が楽しめるかというようなものを自分達で作っている。
  • この分野における自分の知名度が上がるにつれ、大使館としても何か積極的に関われないかということで、カラオケコンサートやコスプレショーの審査員を務めたり、国際マンガ賞(2007年に当時の麻生外務大臣時代が創設)の入賞者・審査員とのパネルディスカッションにも参加した。
    (地方自治体は、この種のイベントには協力的で、特に大使館からも参加があるとなると、補助金が出易い。)
  • 自分はマンガ・アニメ担当、囲碁・将棋担当、サッカー・スポーツ担当と自称して来たが、囲碁については、古くからの友人が囲碁の普及に努めており、将棋については、NPO「将棋を世界に広める会」の理事を務めていることもあり、大会に参加したりした。又、サッカーについては、Atletico Madridのファンであることから、講演会で日本のサッカー、アジアのサッカーの紹介に努めた。結果として、親日家の拡大の一助になったかと思う。
  • 2008年5月のEXPO MANGAに於いて、一般インターネット投票で日本大使館が特別賞を受賞したが、大使館の活動が評価されたものとして、非常に感激した。
  • ポップカルチャーはサブカルチャーではとの意見もあるが、この分野に関心のある人達は、新しいものへの感度が高いとも言え、伝統文化とポップカルチャーは決して二律背反ではなく、日本の色々な側面を描写出来、日本政府としてポップカルチャーを文化外交の強力なツールとして積極的になるのは当然と言える。
  • 予定より1年早くの帰国となったが、吉川大使より、一番寂しがっているのは、スペインのオタク達ではと言われた。
    質疑応答

  • ①ポップカルチャーとは何か。
  • アニメ、マンガ、ゲーム、歌謡曲・J-POP、最近ではファッションまで広がり、大衆に幅広く受け入れられている文化と言える。
    日本のアニメ、マンガは世界的に非常な人気を博しており、JETROの2006年の調査では、スペインにおける2005年の全国TV地方局でのアニメ放映は日本の作品はアメリカの25.6%を大きく引き離して、36.1%と最大であった。週末午前中の各地上波放映の半分はアニメで、又、その半分以上は日本製であるという。
    欧州では、フランスが一番進んでいるかも知れないが、スペインでも21世紀に入ってマンガ出版が盛んになって来ている。日本のマンガは人を感動させ、「面白い」「格好良い」ものという印象を与えている。
    ソフトの中では、世界の中で覇権を唱えているのがマンガ、アニメ、ゲームであろう。
  • ②マンガ、歌謡曲をテーマとして、どんなことを話されたのか。
  • 戦後日本のマンガ発展史ということで、「何故発展したのか」「マンガを取り巻く社会環境」「どういう世代が支持したのか」「どのように外国に広まって行ったのか」という切り口で話し、このようなマンガを作る日本は、「面白い国だ」「楽しい国だ」「新しいことを考え出す国だ」というメッセージを伝えた。
    例えば、「鉄腕アトム」は、日本の科学技術、ロボットに対する日本人の感覚に大きな影響を与えたが、工場ロボットが導入された時、欧州では排斥運動が起きたのに対して、日本では名前を付けて同僚として扱った。
    歌謡曲については、戦後を代表する女性歌手達を紹介したが、1970年代に世界のミュージック・シーンを変えた、日本人による二つの発明は何かという質問をした。一つは「ウォークマン」(1979)で、音楽を家の中から街に持ち出した。もう一つは「カラオケ」(1971)で、新しいコンセプトを考え出した。
    日本人は創造力がないと言われるが、面白いこと、楽しいこと、或いは奇妙なものを考え出して、世界に発信しているのではと思う。
  • ③スペイン語への翻訳の現状はどうか。
  • フランスが進んでいるので、フランス語からの翻訳が多いが、最近は、直接、日本語からの翻訳が増えて来ている。
    バルセロナには日本マンガ出版社社会というなものが出来ていて、レベルはかなり上がって来ており、「マンガで覚える日本語」という本を出したりもしている。
    日本のアニメが放映されると、その日の内に、英語、中国語の、翌日には韓国語の、4-5日後にはフランス語、スペイン語のサブタイトルが、愛好家によって、勝手に(無料で)作成されているのが実情である。
    通常の書籍と同様、日本ではマンガも右開きだが、スペインでも当初の左開きから、右開きのものに変わって来ており、将来は、スペイン文化と結び付いたスペイン独自のものに変容して行くのではと思われる。

4) 概況説明

  • 今までの講演とは若干異なった分野の内容であったが、非常に興味深い内容で、従来からの伝統文化・芸術に加え、マンガ・アニメ等のポップカルチャーが文化外交の強力なツールであることを認識した。特に、日本人の感性、考え方に裏打ちされた日本のポップカルチャーが海外で、若者を中心に圧倒的な浸透力を示しており、関連イベントで数万人規模の集客力を持っていることは驚きであった。今後、ポップカルチャーへの関心が、日本全体への関心に繋がるものと期待される。
    講演後も、飲み放題のワインで話も弾み、楽しい会となった。

以上
(文責 清水)