第44回定例会

日時:2009年9月30日(水)18:45~21:30

場所:カフェ・ジュリエ

参加者:20名

1講演概要

    エドゥワルド・アギーレ・デ・カルセル広報担当参事官(Eduardo Aguirre de Carcer)
    「首相府直轄の広報部新設」その目的と役割、機能
    今回は、新設された広報部の参事官として今年3月着任されたエドウアルド・アギーレ氏にお話しを伺うこととした。
    アギーレ参事官は、1961年5月マドリッドの生まれ、マドリッド・コンプルテンセ大学法学部を卒業後、国家公務員上級職試験に合格、首相府に入省。主に情報広報分野を歩まれ、前任職務は首相府情報官房。海外勤務は1998年から2004年まで駐ベネスエラ スペイン大使館広報担当参事官として活躍された。
    新設された首相府直結の広報部とはいったいどのような目的でどのような活動をするのかおおいに関心のあるところなので この点を中心にお話をして頂いた。講演概要以下のとおり。
1.広報部の性格
    *広報部とは?

  • 在外公館内の一部署ではあるが、首相府国家情報局の任務、権限のもと、国の対外行動、対外政策を、情報面で補佐、支援する事を目的とする。
    広報部を統括管理する参事官は、首相府国際情報部長の事前通知に基づき、第一副首相兼首相府長官が提案、これを受けて外務省が任命する。
    従って形式的には、外務省の任命ではあるが、首相府に従属する。
    *何故に「報道部(prensa)」ではなく「広報部(informacion)」なのか?

  • マスコミ、報道機関等を対象とするだけでなく、駐在国で発生する主要な出来事に関し、公表された情報を政治的、経済的に分析する一方、当該国のあらゆる方面から寄せられるスペインに関する問い合わせに対しても情報を提供する役割を担っているからである。 例えば、つい先日もスペインの外国人法についての質問から、スペインで地震は何回あるのかとか、日本のように音を立ててうがいをするのかとの問い合わせにまで応じている。
    *在外公館にある広報部の数は?

  • 総ての在外公館に設置されているのではなく、現状、国家情報局に従属する広報部は22箇所に置かれている。即ち欧州ではドイツ、ベルギー(首都ブラッセルとEU)、イタリア、フランス、オランダ、イギリス、ポルトガル、ポーランド、ロシア。中近東はモロッコ、トルコ、エジプト。北米はアメリカ(ワシントンとニューヨークの国連)。ラテンアメリカはアルゼンチン、チリー、ブラジル、メキシコ、ベネスエラ。アジアは中国と日本。
    *何ゆえに、東京の広報部開設がかくも遅れたのか?

  • 広報部の設置は、政治的、経済的優先順位に応じて決定されるのが原則であり、世界第二の経済大国に今まで開設されなかったのは不合理に見えるが、実は両国の政治、経済関係から見ると、日本はまだ遠い存在であり、互いの関心度は薄いというのが現実である。(無論広報部が設置されていない大使館には、それに代わる職員が広報業務を担当している。)
    然し 今回 第一副首相の決断で急遽日本に広報部の開設が決定されたもので、思うに 来年上半期は、スペインがEU議長国になり、日欧首脳会議が予定されていることがその背景と考えられる。 続いて自分が初代広報部参事官就任の決定が首相府長官室より出され、3月初め着任。 スペイン大使館内に広報部を開設し、人の採用や什器備品購入など庶務事項を終え、5月から広報活動を開始している。
    *広報部の機能上の位置づけと組織上の位置づけ

  • 首相府の組織法によれば、国内外にける情報活動の指示は、国家情報局、一方 在外広報部間の情報活動の調整は国際情報部と定めている。
    一方の組織法は“海外行動一体性”の原則を謳っている。
    要は機能及び組織面で、広報部は国家情報局と大使館の両方に従属する形となる。
    具体例を挙げれば、国家情報局へ送る日報、国家情報局から送られてくる総ての情報を、広報担当参事官は大使へも伝える義務を負うし、国家情報局の要請また大使の要請でレポートも作成する。
    *どのような人が どのような形で任命されるのか

  • 昔の報道官は、情報専門家部隊の要員により占められていたが、この部隊は廃止になり、現在は民事上級行政官部隊のメンバーから候補者を募り、試験の結果で任命する。
    無論上記部隊と異なるグループのメンバーも立候補可能だが、基本的には先ず国家公務員でなければならない。
2.広報部の機能、活動

広報部の活動は、大きく3つに分けることが出来る。
広い意味での情報活動、次に補佐支援、渉外、イメージ作り活動、そして人事会計庶務活動。

    *情報活動
  1. 駐在国で公表されている情報の中で 国家の行動に役立つと判断される総ての情報を、国家情報局へ伝える。
    先ず 当日の主要新聞10紙の見出し、掲載されたスペインに関する記事、主要掲載記事の簡単な纏め速報(AVANCE)を作成送付(首相府国際情報部長に午前9時必着)。
    その後、当日の新聞に多く取り上げられているテーマの社説、論評を3つの分野、即ち欧州、国際問題、国内問題(自分の場合日本国内)の視点から選択しそれを翻訳した要約日報(Resumen Diario)を作成送付。
    国際情報部は、各国駐在広報部から送られてきた要約日報を基に海外新聞報道日報を毎日作成し、これを総ての閣僚大臣、政府の高官に配布する。
     その他情報の提供
     首相府ないし大使要請による特殊情報
     日本の政治情勢の現状に関する月報 (スペインに関心のある現在の国際的テーマ、平和と安全、経済危機、エネルギー、人権、外国人移民、及びスペイン、欧州の先行きに焦点をあてたもの)
     旬報(日本のマスコミ分野が抱くスペインのイメージ評価。現状聊か薄いイメージ)
     要人の公式訪問にかかわる事前及び事後レポート。
     広報部の年間活動報告
     日本のマスコミの個別評価年間レビュー
     日本のマスコミ現状レポート
     日本政府情報機関に関するレポート
     来日外国要人の会談レポート
     大使要請のレポート
  2. インターネットで国際情報部の情報を常に共有し、必要に応じ日本の報道機関に本国情報を提供。
  3. スペイン人特派員との協力関係維持。
    現状EJEの特派員のみで北京に常駐、必要に応じて日本へ出張取材に来る体制。
  4. 日本のマスコミ、大手通信社等との人的関係構築維持。
  5. 日本の政府系情報機関との協力関係維持。(例 今回の衆議院選挙取材で来日した7人のスペイン人特派員の信任。)
  6. 要人の公式訪問にかかわる諸手配(事前訪問予定表配布、記者会見手配など)
    *補佐支援、渉外、イメージ作りの活動

  • 補佐支援活動:情報面で大使及び大使館内部署の支援、補佐をする(新聞、通信社情報の配布、インタヴュー手配、記者会見の召集、大使館プレスレリースの作成等など)
    渉外、イメージ作り活動:政府、国家機関、王室、自治州などの要請に対応。大使館スポークスマン役(大使の同意ある場合)、日本のマスコミ、日本政府ないし地方政府情報機関との付き合い。
    他国の駐日大使館、特に欧州中南米大使館報道参事官との緊密な関係維持。
    *人事会計庶務活動

  • (因みに米国大使館広報部は30名の陣容)。
    活動資金は4半期ごと付与される予算で、日々の支払いを現金簿と銀行預金簿に記帳し四半期ごとに決算残高照合する。
3.目的
  • 広報部を開設して7ヶ月経過、5月より日報、特殊情報、月報、旬報などの作成送付を行っており、いよいよ船出をしたわけで、今後は、マスコミ、報道機関、政界、財界、芸術家などとの人脈構築に努めたい。
    イメージ作戦には、人的関係が最も重要だからである。
    そして、日本に於けるスペインのイメージをよりよくする為、日本人のスペインに対する関心がより高まるよう微力を尽くす事が広報部の目的である。
    最後に日本のマスコミ、新聞報道について率直な感想をのべるならば、完全な報道の自由が保障されており、大胆な政府批判記事もあるし、深い分析をした素晴らしい論説を見受ける一方で、国際問題についての記事が乏しく、殆どが通信社から入手した情報を基にしている。日本国外の問題については関心が薄いとの印象を受けた。
4.質疑応答
  • * P.広報部作成の日報は入手可能か?
      R.主要新聞の見出しや関心記事を纏めた日報は、要請があれば渡す事が出来るが それ以外の情報はできない。
    * P.ベネスエラに於ける報道の自由の現状は如何?
      R.チャベス大統領就任時は、80%以上の国民支持率を得て外国大使館もこれを支持していたが、その後強権政治に変わった政府は軍隊化して、政府批判のテレビ局は閉鎖に追いやられ、今生き延びている放送局は、政府批判をいっさいやめている。 現ベネスエラ政府は、表現の自由を、報道の自由を尊重していないと言える。
    * P.スペインが、EU議長国になる来年上半期のイベント及び首相の来日予定は如何。
      R.日欧首脳会議開催は予定されているがその他のイベントについてはまだ具体的に決っていない。ザパテロ首相の来日は4月ごろと見られるも日程はまだ確定していない。

あとがき

  • エドゥワルド・アギーレ参事官は、事前に準備された原稿を基に、歯切れの良い発音で講演されたので、会員の方々も内容を理解しやすかったものと思う。
    残念ながら 開催日が企業の中間決算日に重なったところから、いつもの例会に比し若干参加者が少なかったが、広報担当参事官だけに、参加会員と幅広く積極的に話しをされたので、両者にとって有益な懇親の場になったものと思う。
  • (注)当日参事官は スペインの現状をいろいろな分野から記した本“Libro Espana Hoy”を紹介されたが、この本の内容は以下インターネットアドレスで見ることができるので、興味のある方はアクセスして下さい。
      http://www.la-moncloa.es/Espana/Espaniahoy/default.htm(削除済み)

以上
(文責 澤木)