第45回定例会

日時:2009年11月13日(水)18:45~21:30

場所:カフェ・ジュリエ

参加者:25名

1)講演概要

    Rafael Coloma Arambura氏(スペイン大使館経済商務部所長・経済商務参事官)
    「スペイン経済の現状と展望」
    1.スペイン経済の現状

  •  スペインは近年14年間に年平均で3.9%(実質)の順調な経済成長を続けた。この持続的高成長は、主に住宅建設部門の危機の発生よって2008年末に終わった。現在、経済危機は、不動産部門から投資・消費の総需要減退に波及している。景気拡大期には、ユーロ導入による低金利、銀行貸出の増大、女性の経済活動への積極的参画、移民の急増などによって、内需の拡大は加速した。スペインの人口は2000年の4020万人から2008年に4620万人へと8年間で15%増加した。移民人口は現在、スペイン総人口の11.4%を占めるようになった。
  •  このようにスペイン経済は2008年末から不況に陥った。2009年第1四半期、第2四半期、第3四半期も不況が続いているが、最近は景気後退のリズムが鈍化しつつある。経済成長率は2009年第1四半期-1.6%、第2四半期-1.1%へと下げ幅が縮小しつつあり、第3四半期は-0.3%となった。ただし、年率では-4.0%である。
  •  GDP需要項目に注目すると、高成長の牽引車になった家計消費は2009年1-9月期に前年同期比で-8.6%と減退し続けている。この結果、小売業の売り上げも減少している。税制上の景気浮揚策(個人所得税400ユーロ減税、資産税の廃止など)にもかかわらず、消費はなかなか回復する兆候を見せていない。その理由は、雇用情勢の悪化や将来不安の増大、信用収縮、住宅価格下落による「逆資産効果」などが、家計消費の足を引っ張っているからである。所得の伸びを137%も上回る「梃子の原理」のような消費増大パターンは、まさに梃子が逆回転することによって消費減少が加速化しているのである。その反動として、家計の貯蓄率は従前の10%前後から17.5%に上昇している。
  •  このような消費動向も反映して、消費者物価指数は2009年第2四半期に-0.1%、第3四半期に-1.1%となった。エネルギー、工業製品、生鮮食料品の物価下落が顕著であった。労使間協定による賃金上昇率は1-9月期に前年同期比で2.6%に鈍化した。
  •  家計消費とともに高成長の原動力であった建設部門でも低迷状態が続いている。新規住宅建設が激減し、雇用も顕著に低下した。2007年に着工された住宅物件が市場に出回っており、これが住宅価格下落に拍車をかけている。2010年まで、困難な状況は継続するだろう。スペインの人口動態から見て住宅需要は約35万戸と推定されるが、これは2006年時点の住宅ストックの50%にしかすぎない。
  •  失業率は9月のデーターで19.3%とOECD諸国中、最も高い数字である。しかし、失業者として登録されながら実際には働いている人々の数を考慮すればスペインの真の失業率はアイルランドと同水準の13~15%程度であろう。スペインの場合、経済成長率が3%を超えてやっと雇用創出が可能なので、2011年に見込まれる1.6%程度の成長率では雇用創出は難しい。いずれにしても失業は深刻であり、その悪化スピードが心配である。経済危機の当初、雇用破壊は女性、若者、移民、有期雇用者に及んだ。若年層の失業率は41.7%、移民労働者の失業率は28%である。さらに失職した者の90%が非正規雇用者である。しかも、2009年の第1~第3四半期では、男性の雇用破壊が進んでいる。失業が多いのは建設部門であるが、失業はいまやサービス産業全般に及びつつある。小規模の公共事業を進める「地方投資奨励国家基金」は約42万人の雇用を生んだと推定されるが、このような措置がなかったならば事態はもっと深刻になっていただろう。
  •  政府歳入は、税収の激減もあって2009年第2四半期に-41.8%の大幅減少となった。他方、歳出は大幅に増えている。特に失業関連歳出が21%増を示すなど、これまでで最大の増加率である。財政赤字は2009年にGDP比で10%、2010年には11.2%が見込まれている。ユーロ圏の財政赤字は2009年6.6%、10年7.2%、2011年6.6%となろう。スペインが深刻なのは、2008年末で3.8%であった財政赤字が、たった1年間で急速に悪化してしまったことである。税収は、個人所得税-10.9%、法人税-30.4%、付加価値税-33.9%と落ち込んでいる。予告されている付加価値税の引き上げは焼け石に水で、他のEU先進国並の20%に引き上げざるを得ない。
  •  EU財務省理事会は、「安定成長協定」に基づき、スペインがフランス、アイルランドとともに財政赤字をGDP比3%以下に落とすべき目標年を1年先延ばして2013年とすることを11月10日に決定した。これを受けてスペイン政府は2013年には財政赤字を1.7ポイント低下させることを約束した。
  •  財政赤字によって公的債務残高は2009年GDP比53%、2010年62%、2011年74%に達するであろう。これでもスペインは、ユーロゾーンの平均88%よりもましではある。しかし、財政赤字を抜本的に削減しないと急スピードで債務残高が増えてしまうだろう。欧州中央銀行関係者たちの間では、低金利の段階はそろそろ終わりに近づいているとの見方が有力になっている。政策の急転回はなかろうが、1%の低金利政策からの出口戦略が現在検討されつつある。おそらく2010年中頃から小幅の金利引き上げを行い、2年後には金利は3%台になるだろう。そうなるとスペインの債務元利支払い額は増大し、スペイン経済の財政上の困難度が増すことになる。すでに失業対策費と債務の元利払費を合わせると歳出総額の約3分の1になっているのである。
    2.今後の展望

  •  欧州委員会経済局が作成した最近の報告書によれば、ユーロゾーンの国々の危機からの脱出スピードの差は、次の二要素に依存するだろう。すなわち、第1は労働市場の状況、第2は経済における建設部門の比重である。スペイン経済については2009年-3.8%、10年-0.8%、11年1%前後の成長が予想される。失業率は20.5%になるだろう。経済成長率がプラスに転じるのは2010年第3四半期あたりになるであろう。
  •  財政赤字は2010年にGDP比率11.2%に達するものと思われる。付加価値税IVAの引き上げが見込まれてはいるものの、これによる財政赤字削減幅はGDP比0.5ポイントにとどまるだろう。財政赤字を減らすには歳出カットを行い、90年代に実施したような財政再建の努力を再び行なうなど経済安定化政策を長期にわたって実施しなければならない。PLAN E(経済と雇用活性化計画)や地方投資奨励国家基金による措置などの景気浮揚策を実際に景気回復が見られるまで継続実施すべきである。
  •  さらに政府は次のような構造改革を推進すべきである。まず(1)より足腰が強く体力のある金融機関を創り出すための一環として貯蓄金庫の合併・集中を加速させなければならない、(2)労働市場の改革を通じて柔軟化を達成し、より多くの雇用を創出する、(3)政府は、EU域内サービス自由化指令のスペイン国内法制化を加速させるべきである。GDPの62.6%を占めるサービス産業が自由化を進めなければ、スペインの景気回復はむずかしい、(4)景気対策はいつまでも続けられるものではないし、その有効性に限界もある。ゆえに構造改革が必要である。
  •  最近、景気回復へ足並みが弱まりつつあるということを指摘するレポートも散見される。小手先ではない、問題の根元を改革する政策が今こそ望まれるのである。このような政策が奏功する時期はすでに終わりつつあるのかもしれないので、タイミングが極めて重要である。

3) あとがき

  •  Coloma氏の論旨明快、格調の高いスペイン語文章、説得力に改めて感服した。正統派エコノミストならではの力量をColoma氏はお持ちだと推察する。
  •  他方、講演冒頭で会場を爆笑に包むユーモアのセンスにもあふれている。<日本に来て3ヶ月になろうとしているが、まず学んだことが二つある。一つ目は時間厳守が大切だということ。イギリスの時間厳守は[a tiempo, on time]であるが、日本では[antes de tiempo, before time]で相手先に着いていなければならない(大爆笑!)。二つ目は「いうことをきく」こと。この講演では、大航海時代のスペインと日本との関係をフィリピン、中国やヌエバエスパーニャ(メキシコ)との広域軸から語りたかったのであるが、「日西クラブのいうことを素直にきく」ことが大切と考え、「つまらないスペイン経済の話」にした(小笑)。次回、また話すチャンスがあれば、歴史の中の物語について話したい>との言葉で講演が始まった。
  •  講演後の乾杯の音頭では、澤木副会長に続きColoma氏は「日本スペイン経済交流の活性化ためにスペイン大使館経済商務部所長として最善を尽くしたい。日西クラブの皆様のご支援も賜りたい。最後に平成20周年・平成天皇在位20周年を心よりお祝い申し上げたい」と述べた。講演後のパーティーは和気藹々とした雰囲気に満ちていた。

以上
(文責 戸門一衛)