第57回定例会活動報告 & 第14回総会

日時:2012年6月13日(水)18:40~21:30

場所:カフェ・ジュリエ

参加者:40名

1)総会
2)Seiko Luis Ishikawa(石川成幸)氏(駐日ベネズエラ大使)  講演
3)概況説明

1)総会

    澤木副会長を議長に選出、活動報告、活動計画を清水副会長が説明、会計報告、予算を田林理事が説明、役員選出議案を澤木副会長が説明し、以下議案が承認された。
    1号議案 2011年度活動報告および決算の承認
    2号議案 2012年度活動計画及び予算の承認
    3号議案 2012/2013年度役員の承認

2)講演

    Seiko Luis Ishikawa(石川成幸)氏(駐日ベネズエラ大使)
    「日本・ベネズエラ関係、最近の進捗状況」
田中会長より「当会としては、経済のみでなく、政治、文化、社会問題までテーマを広げるよう心掛けており、又、スペインに関わる中南米方面にも焦点を当てるべく努めて来たが、今回、ベネズエラということで、トップバッターとして石川大使に講演をお引き受け頂き誠に光栄に思っている。石川大使は、日系二世であられるほか、シモン・ボリバル大学で金属工学を専攻され、米国のハーバード大学大学院ではビジネス戦略、マーケティング等を専攻という経歴をお持ちだが、私は海外日系人協会理事長として、石川大使をベネズエラの誇りのみならず、日本の誇りでもあると思っている。」との冒頭挨拶の後、石川大使より「田中大使とは非常に深い関係があり、ご依頼はご指示と思ってお引き受けした。本日に備えて不眠不休で勉強、日本語でお話させて頂く」との前置きの後、パワーポイントを使用しながら下記お話をお伺いした。
講演概要
    1.ベネズエラの自然
  • 日本から見ると地球の反対側で遠く感じるかも知れないが、世界地図を日本を中心に見ると太平洋を挟んでもっと近く感じると思う。距離というのは、地理的な問題だけでなく、どの位その国のことを知っているかで変わって来る。「百聞は一見に如かず」で短い観光ビデオを見て頂きたい。
  • (ビデオ上映)
  • 面積は広く、日本の約2.5倍。様々な地形に恵まれ、カリブ海沿岸では300以上の島があり、西部ではアンデス山脈があり、メリダケーブルカーは世界一の長さ(12.5km)と高さ(4,765m)を誇る。南部のグアヤナ高原(国土の1/4)は地質学的には1.5億年前に出来た世界最古の地形である。ここには、カナイマ国立公園という世界遺産(自然遺産)があり、60以上テーブルマウンテンと呼ばれる山がある。その最大のものは東京都23区がすっぽり入ってしまう広さである。その断崖絶壁から流れ出た川が滝となるが、中でもエンジェルの滝は979mで世界一高い滝として有名である。
    2. 歴史
  • ベネズエラの歴史は余り古くなく、昨年、独立200周年を迎えた。シモン・ボリバルは建国の父であるが、コロンビア、エクアドル、ボリビア等の独立にも関わった。
  • 南米を一つの共同体とする大きなヴィジョンを持っていたが、200年後の昨年11月、中南米33ヶ国首脳が集まり、「カラカス宣言」を採択、中南米カリブ海諸国共同体(CELAC:Community of Latin American and Caribbean Nations)が発足した。
  • カラカス宣言では、政治、経済、社会、文化の統合を目指し、経済格差を減らすため、地域間の経済協力を深めるとしたが、ボリバルの夢が遂に実現したと言える。成果はこれからだが、例えば、「核兵器全面廃絶に関する特別声明」を採択、地域としての平和への価値観を表明した。
    3. 社会政策
  • 人口は約2,900万人で日本よりはるかに少ないが、人口密度は日本で一番低い鳥取県でもベネズエラの2倍で、非常に広い地域である。更に非常に若い国で、人口の3割は14歳以下である。(65歳以上は5%)しかし、平均寿命は74歳で、この10年間に上がって来た。(男性:70歳、女性は:79歳、出生率は2.4)
  • この10年、食料安全保障、医療、住宅供給、雇用・職業訓練等の社会福祉プログラムを実施、その成果として、ジニ係数(Gini coefficient所得分配の不平等係数、ゼロに近い程良い)は大分下がって来ており、中南米カリブ地域では2番目に低い。
    4. 教育
  • 様々なプログラムの中では、教育の改善にトッププライオリティで取り組んで来ており、国連ミレニアム開発目標( MDG: Millennium Development Goals )の2015年達成を前倒しで2010年に達成、大学進学率は世界10位である。(女性の大学進学率はは95%台)女性の社会進出(ジェンダーイクオリティ)とエンパワーメントに関するMDG目標も既に達成しているが、国の5機関の内、3つのトップは女性、内閣では30%が、国会議員では16%が女性で非常に進んでいると言える。
    5. エル・システマ(音楽を通じた教育)
  • 1975年、ホセ・アントニオ・アプレウ博士が創設した「音楽を通じた教育」エル・システマは、オーケストラを通して社会的価値観を醸成、責任感、協調性、自立心を育成するプログラム(完全無償)で、この40年間で40万人の子供が参加しており、200以上のオーケストラが誕生している。
  • マザー・テレサの言うように「貧困の一番大きな問題は、誰にも必要とされないという孤独感を持つこと」で、本プログラムは貧困層の子供達の教育に大きな成果を収めつつある。又、知的障害者のオーケストラとか囚人のオーケストラもあり、良い結果が出ている。
  • このモデルは既に25ヶ国で実施されており、今一番話題となっているのはアメリカで、ロサンゼルス・フィルハーモニック音楽監督のグスタボ・ドウダメルはベネズエラ人でエル・システマの音楽教育を受けている。
  • 日本との関係では、JICAにお世話になっているし、ピースボートには日本全国から集められた中古楽器の提供を受けている。
  • 今年5月、日本の福島県相馬市の小学校で始める協定が結ばれ、今後、先生が送り込まれるが、日本での実施は創設者ホセ・アントニオ・アプレウ博士の夢でもあり、両国関係が更に良くなるのではと思う。
    6. 貿易関係
  • 国交の始まる10年前の1928年、最初の移民として矢沢氏が石油開発を目的に来たが、うまく行かなかった。
    しかし、約80年後の2009年に日本・ベネズエラ間でエネルギー協力協定が締結され、矢沢氏の持っていたヴィジョンが花開いたと言える。
  • 2001年に商務担当官として初めて来日した時にエネルギーの話を始めたが、時期尚早で中々進展しなかった。今回、協定が結ばれたことを非常に嬉しく思う。
  • この20年間で貿易関係の内容は余り変化なく、日本からベネズエラへの輸出は機械、電気製品、自動車、ベネズエラから日本への輸出はアルミが多かったが、エネルギー協力協定のお陰で最近は石油製品が増えている。
  • 2009年 日本の地デジ方式が採用された。当初、他の方式で決まっていたが、担当大臣が変わり、技術系の人だったこともあり、日本方式に切り換わった。両国の相互補完的な関係と言え、ベネズエラは日本の技術が必要で、他のセクターにも波及することを期待したい。
  • こうしたことをStrategicに取り組み始めたのがエネルギー部門で、エネルギー協力協定(石油開発、貿易)後の進展が期待される。
    7. 最近の日本とベネズエラの関係
  • 最近は、友好関係がスポーツ、文化面でも広がっており、野球では、今年はベネズエラから日本の高校へ留学生が来日、来年辺りは甲子園で活躍する姿が見られるかも知れない。
  • 文化面では、2012年10月にシモン・ボリバル・オーケストラのトップ弦楽奏者からなる弦楽四重奏団が来日、ツアーには東京公演も入っている。4人共、エル・システマ出身である。
  • 又、来年の国交75周年記念行事の一つとして、カラカス・ユース・オーケストラ(年齢が若く10代後半が中心)が来日するが、リカルド・バルデスの指揮の下、素晴らしい演奏が期待される。
  • 尚、両国関係を語る時にJICAの協力は非常に大きいが、最近は海外青年協力隊の活躍も目覚ましく、今後、若い人が両国の親密な関係を更に拡大してくれることを願っている。
(質疑応答)
  • (1) 最近、中南米で日系大使が出て来ているがメリット、デメリットは?
  • 日系人大使は、パラグアイ(一世)、ボリビアと私の3人いる。
    メリット:言葉、文化知識、そして一番大きいのが、家族、親戚等の繋がりでのサポートもあり、ネットワークを作り易いこと。
    デメリット:DNAは100%日本人なので、どうしても日本人として見られてしまい、一種の差別観を持たれること。
  • 一番嬉しいのは自由に、普通の日本人と同じように行動出来ることで、一番感謝したいのは大統領の指示で日本に来れたことであるが、大統領が日本との関係を良くしたいとの思いの表れである。これは、日本が尊敬される国となったということで、昨今、批判的なニュースが多いが、日本の若者にもっと自国に誇りを持ち、夢を持って欲しいと思う。
  • (2) チャベス大統領は反米と言われているが、日本に対してどんな感情を持っているか?
  • 大統領は反米ではない。非常にヒューマニスティックな人で、人との繋がりを大事にする人である。アメリカに反対しているのではなく、システムに反対しているのであり、そのシンボルとしてのAnti-imperialismを標榜、全ての国と仲良くしたいと思っているが、そのキャラクターからメディアで報道される時に、ラディカルな、極端な面が出てしまっている。
  • 2009年、日本訪問時は、米国の重要な同盟国ということで、大統領は当初、不安を感じていたと思うが、「日本にはCivilityがあり、人間としてハイレベルにある」と感嘆、非常に喜んで帰国した。成果としては、エネルギー協力協定、地デジ方式の締結がある。
  • そもそも、日本に来て、日本を嫌いと言って帰った人は知らないし、外交官達に「日本に慣れるまでどの位掛かったか」と聞くと異口同音にゼロと言われる。日本人はもっと誇りを持って、日本の独自の道を歩んで欲しい。日本は本当の社会としての基準を満たしており、日本人から学ぶことが多くある。自分は色々な政府機関の人々を招いて来たが、自信をもって日本を紹介している。
  • (3) ご両親が日本人で、育ちはベネズエラだが、Identityとしてはどちらにあるか?
  • Identityは100に対して何割というものではなく、時と場合によって何を感じるかで変わるが、1+1が2になると思っている。
    国のインタレストに関わる時は、もちろん、ベネズエラ人の心で行動する。
  • 日本の文化は環境を大事にするが、「日本のためになると思うものは、ベネズエラのためにもなる」と信じている。
    Criteriaとして考えているのは、「ベネズエラにも日本にも良くなって欲しい」ということで、これが将来良い結果に通じると信じるし、又、これを日本人に分かって欲しいし、分かってもらえると信じている。

3) 概況説明

  • 昨今のスペインに関する報道は、ほとんどが経済危機の問題に収斂し、失業率何パーセント、国債云々で食傷気味となっていたが、清水先生のスペインの歴史、文学から捉えたご説明は非常に興味深く、過去何度も破綻した経験を持つスペイン、ひいてはEUの今後の動向が注目される。講演後は、スペインワインと共に話が弾み盛会となった。

以上
(文責 清水)